とらえもんが、わが家にやってきた。

わが家では、黄色のEVトゥクトゥクという三輪の乗り物に乗って、息子の送迎をしている。
名前は「とらえもん」。
息子が一年生になったタイミングで乗り始めたから、もう三年目のつきあいになる。
まだまだメジャーとは言えない乗り物だけど、近所に同じタイプのトゥクトゥクに乗っている人がいて、私はよくそれを見かけていた。 スーッとスマートに、171号線を走っていくその姿が、とても魅力的だった。
息子が近所の小学校ではなく、家から少し離れたオルタナティブスクールに通うことになったとき。 送迎が必要だと分かり、車を買った方がいいのかな?と迷っていた。
でも私も夫もペーパードライバー。「車の運転はちょっと気が進まないな」と思っていたとき、あのかわいい乗り物がポンッと頭に浮かんできたのだった。
試乗してみると、原付バイクのように気軽に運転できる。その手軽さが心地よかった。 屋根があるから、雨にも濡れないし。
そして、とらえもんがわが家にやってきた。
思っていたのと違う!ガタガタ道の日々。

納車されて、実際に道路を走ってみて、正直びっくりした。 お店で試乗したときは、平らな床の上をゆっくり走っただけだったから気づかなかったけれど、街中では全然ちがった。
スーッとスマートに見えていたその乗り物は、実際にはなかなかハード。
マンホールやガタガタの道では、振動がバイーン!とダイレクトに伝わってくる。まるでアトラクション。 いちいちビクーッとする。
カバーはあるけれど風の音はすごいし、後部座席の息子の声は、赤信号で停止しているとき以外はほとんど聞こえない。「え?なんて??」とばかり聞き返していると、次第に息子は私に話しかけなくなった。
風の強い日は、ハンドルを持っていかれそうになって怖いし、 大雨の日には、電源が水に濡れてショートして、突然動かなくなったこともあった。
夏はクーラーなしの灼熱地獄、冬は暖房もなくてガタガタ震える。 スピードも時速48キロが限界で、171号線ではビュンビュン追い抜かされていく。
「人は見かけじゃない」とよく言うけれど。乗り物もそうなのかもしれない。 見た目や試乗だけじゃ、ほんとうの「乗り心地」はわからないものだ。
とらえもんとの日々は、びっくりしたり、怖かったり、怒りたくなることも多かった。「もう無理かも・・・」と、別れを考えたこともある。
それでも、とらえもんはどこか憎めない存在だった。
友達が遊びに来てくれるとき、とらえもんで駅まで迎えに行くと、駅前で写真を撮られて大盛りあがり。
「うわー!かわいい〜!」
「アトラクションみたいで楽しい〜!」
って笑ってくれる。喜んでくれる。
でもね、アトラクションって「たまに」だから楽しいんだよ。「毎日」となると、体にも心にも、なかなかの負担なんだよ。
そんな気持ちを抱きながらも、「手のかかる子ほどかわいい」と言われるような、そんなような気持ちになったりもするのだ。
それに三年目ともなると、だんだんと折り合いがつけられるようになってくる。
ガタガタ道をできるだけ避けたり、風の日はハンドルをしっかり握ったり。雨の日にできる大きな水たまりは避けたり、スピードを少し落としたり。夏は小型の扇風機、冬はあったかグッズ。工夫を重ねて少しずつ、とらえもんとの暮らしを楽しめるようになってきた。
そうすると、このチープで突っ込みどころ満載な乗り物が、なんだか愛おしく思えてくる。
なんてガタガタ揺れるんだろう。
なんて乗り心地が悪いんだろう。
なんて暑いんだろう。なんて寒いんだろう。
でも、思わず笑っちゃう。
なんだか、好きになってしまったようなのだ。
父は言う。
「ベンツに乗るよりも、思い出に残るやろうなぁ」って。
本当にそう思う。 あと何年付き合うことになるかはわからないけれど、この乗り物との日々は、まだまだホッペがプニプニしているかわいい息子との日々と重なって、きっと私の記憶に強烈に残るだろう。
そしていつか誰かに話すとき、「あの乗り物がさ〜」って、ゲラゲラ笑いながら語れるような気がする。
とらえもんと私。

最近ふと、思うことがある。
「とらえもんって、なんだか私みたいだな」って。
外から見たら、それなりに楽しそうに、スマートに生きているように見えるかもしれない。
「あんまり悩みなさそうだよね」
「いつも楽しそう」と言われることもある。
でも、私の「乗り心地」は、けっこうハードだったりする。いろんなことを考えすぎて、「なんでこんなに生きづらいんだろう」って思いながら生きてきた。
でももしかしたら、みんなそうなのかもしれないな、なんて思う。
もちろん、「私の人生、最高〜!」と思いながら生きている人もいると思うけれど。
でも、スマートに楽しそうに生きているように見えるあの人も、
羨ましいと思ってしまうくらいに恵まれた環境にいるように見えるあの人も、
強くてかっこよく見えるあの人だって、
実は「乗り心地、最悪・・・」と思いながらも、なんとかやっているのかもしれない。外から見えるあの人の乗り心地なんて、乗ってみないとわからないものだ。とらえもんみたいに。
私と私のつきあいも、もう36年。 乗り心地が悪くて降りたくなる日もあったし、何度もケンカしてきた。
でも最近は、そのどうしようもない私のことを、少しずつ愛おしく思えるようになってきたような気もする。 「ダメだなあ、私」って、笑えるようにもなってきた。
私は今、この乗り物に最後まで乗っていたいと、ちゃんと思っている。
とらえもんと私。
私と私。
その関係性は、どこか似ている。
イライラと愛おしさが入り交じるような、そんな関係も、悪くないのかもしれない。
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